今回は書評『2022年の次世代自動車産業』です。
2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路 (PHPビジネス新書)
書評の本題に入る前に、少しだけ最近のトヨタのニュースを採り上げたいとおもいます。
最近のトヨタは、立て続けに大きな方法転換を実施しています。
まずは、2025年度をめどにディーラーの取り扱い車種を統一するという記事から。
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トヨタ自動車が国内販売体制を抜本的に見直すと報じられた。4つの販売系列でそれぞれ「カローラ」などの専売車を設けて顧客層をすみ分けていたが、それをやめて全車種をすべての系列の国内合計約5000店で売る方針を固めた。販売車種も約60モデルから売れ筋に絞り、半分に減らす。これは大きな動きに見えるが、実はメガ企業であるトヨタにとっては戦術レベルの転換でしかない。国内販売でゾーン・ディフエンス戦術を展開することになった大きな背景には、「CASE+A」への戦略的な対応がある。100年に1度という自動車産業の大転換時代に、トヨタは対応していけるのだろうか。
そして次が、ソフトバンクとの戦略的提携発表。
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トヨタ自動車とソフトバンクグループは10月4日、モビリティサービス事業で戦略的提携をすることで合意したと発表した。保守的な気質の強いトヨタと、積極的なM&A戦略によって事業を拡大してきたソフトバンクのタッグは異色の組み合わせだ。ソフトバンクを含むIT大手に自動車業界の主導権を奪われるとの危機感を持つトヨタの焦りと、日本でのトヨタの政治力やブランドを利用しようと考えたソフトバンクの思惑によって実現した同床異夢の提携を、早くも危ぶむ声が出ている。トヨタとソフトバンクは、モビリティサービスの合弁会社「モネ テクノロジーズ」を設立することで合意した。新会社は過疎地などで需要に応じて送迎や宅配、カーシェアなどのサービスを提供するためのプラットフォームを、自治体や企業向けに供給するほか、自社でも手がけていく。資本金は当初20億円で、将来的に100億円にまで引き上げる計画で、ソフトバンクが50.25%、トヨタが49.75%出資する。トヨタの合弁事業で相手が過半を出資するケースは珍しく、それだけトヨタがソフトバンクとの提携に乗り気だった証左。実際、今回の提携ではトヨタ側からソフトバンクに協業を申し入れた。トヨタが異業種であるソフトバンクとの提携を望んだ背景には、自動車産業のメガトレンドとなっている自動運転や電動車両、コネクテッドカー、シェアリングサービスによる業界の大変革がある。将来的に完全自動運転車が実現してライドシェアが普及すれば、移動する手段としてクルマを保有する必要がなくなる。
自動車業界やIT業界のニュースは連日メディアを賑わせてますから、自動運転、カーシェアリング、ライドシェア、EVなど、ここ数年で自動車業界を取り巻く環境が急激に変化していることは皆さんご存知だとおもいます。
では、ここであなたに質問です。
【質問1】
「カーシェアリング」と「ライドシェア」って、何がどのように違うのですか???
ついでに、もう1問。
【質問2】
「EV」と「自動運転車」って、何がどのように違うのですか???
上記質問に対して一瞬で正確な答えが出せたのは、自動車業界の人が大半なのでは???
意外と難しかったのではないでしょうか。
(別に簡単ならそれで結構ですが。)
多くの人にとって、ここ最近の自動車業界は変化のスピードが速すぎて、ニュースをチェックしているだけでは「知ってるようで知らない話」ばかりが増えてきたのではないでしょうか。
そうなのです。
ニュースを通じて得られる情報はどうしても断片的になりやすいので、たまにはしっかりと、まとまった本を読んでおいた方が全体の流れを俯瞰しやすくなります。
そして全体の流れが俯瞰できていると、毎日のニュースも素早く理解できるようになります!
2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路 (PHPビジネス新書)
Contents
本書は自動車産業を取り巻く状況がコンパクトかつ分かりやすく幅広く網羅されている
本書『2022年の次世代自動車産業』は、日頃のニュースを追いかけているだけは断片的な知識に終始しがちな、今の自動車産業を取り巻く状況の全体像が幅広くコンパクトにまとめられています。
本書『2022年の次世代自動車産業』を読破する頃には、先ほど採り上げた「カーシェアリングとライドシェアの違い」や「EVと自動運転車の違い」のような、「知ってそうで知らない話」もしっかり理解できるようになります。
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引用元:2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路 (PHPビジネス新書)
現在の自動車産業を取り巻く状況は、トヨタ、ホンダ、日産やGM、フォード、ダイムラー、BMW、テスラといった既存自動車メーカーはもちろん、ウーバー、リフト、インテル、エヌビディア、グーグル、アップル、アマゾンといったIT企業も交えた戦いであり、さらに日本、米国、ドイツ、中国の、国の威信をかけた戦いでもあります。
本書は、ここ最近の要点が、全部網羅されています。
この本を読めば、最近の日経新聞の記事のほとんどを理解できると言っても過言ではありません。
新書レベルでは、これ以上ないと言って良いほど充実しているとおもいます。
本書は、特に30代40代のビジネスパーソンの皆さんに強くおススメします。
2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路 (PHPビジネス新書)
本書の欠点
本書『2022年の次世代自動車産業』は、ページ数が多いです。
400ページ以上ある、渾身の1冊です(笑)。
しかも既存の自動車メーカーにとどまらず、IT企業や国の政策も巻き込んだ多重構造の戦いを題材にしています。
そのため非常にややこしそうな本にも見えますが、本書は、著者が「大学教授×上場企業取締役×経営コンサルタント」の顔を持つ田中道昭氏であり、「分かりやすい図」と「平易な文章」でまとめられています。
そのため自動車産業に詳しくなくても、数日で読み切れますので、どうぞご安心下さい。
本書はマスコミが日頃あまり詳しく扱わない海外の情報も充実
見所は満載ですが、特に私の印象に残ったのは、海外の動きでした。
ドイツはやはりダイムラー
ドイツには目を惹く事例があります。
2016年のパリモーターショーで「CASE」と名付けた中長期戦略で次世代自動車の在り方を示したダイムラーです。
(日本国内でも2018年秋から投入されますが、)MBUXと名付けられた車載システムは、グーグルをはじめとした大手IT企業に依存せず、自社で開発したAIアシスタントになっているとのこと。
メルセデス・ベンツ Aクラスが登場。AIによる学習機能「MBUX」を搭載
「MBUX」の音声認識機能は、自然言語認識機能の搭載により、事実上ほとんどの命令に従い、インフォテインメントや車両操作関連の文章を認識、理解できるそう。例えば、エアコンの温度を下げる場合、「温度24度」という明確な命令でなくても、「暑い」といえば理解するそうです。
もう一つ引用しておきましょう。
新型メルセデス・ベンツAクラス発表! 人間の言葉を理解するMBUXを搭載
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新型Aクラスの装備面で、最大の注目といっていいのが、MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)と呼ばれるインフォテイメントシステムだ。これは対話型のシステムで、簡単にいえば音声で色々な機能がコントロールできるという装置となる。まず機能の立ち上げは「Hi,Mercedes(ハイ メルセデス)」という言葉。これによって、立ち上げたあとは、ナビの目的地入力、電話の使用、音楽選択、メッセージの入力や読み上げ、気象情報、エアコンの調整、ヒーターの調整、照明の操作など、さまざまな操作が可能となる。実際こうした機能は、ナビの操作などではお馴染みでさほど新しさを感じないかもしれない。だがMBUXの凄いところは、決まった言葉で操作する必要がないところだ。たとえば「温度24度」という決められた定型文を話さなくても、「暑い」といえばエアコンの調整がなされるなど、人間が機械に合わせるのではなく機械が人間に合わせていくのだ。
アマゾンの「アレクサ」やグーグルの「グーグルアシスタント」と同様、「ただ話しかけるだけ」で直感的に操作できるシステムを、既にダイムラーは自前で調達できるレベルに到達しています。
あわせて、ダイムラーが2008年から展開しているカーシェアリングサービスが、世界最大規模で成長している様子が詳しく書かれています。
日本にもカーシェアリングはありますが、道路交通法の縛りもあってレンタカー的な使用法にとどまりがちです。
ダイムラーがドイツ、イタリア、スペイン、アメリカ、中国などで展開しているカーシェアリングは、日本のそれとはシステムからして全然違います。
しかもカーシェアリングをやり始めることで自動車販売台数が減っているかとおもいきや、「むしろ前よりクルマが売れている。」とダイムラーは発表しています。
やはり最近の中国は侮れない
中国はITにせよ自動車にせよ、豊富な資金力にモノを言わせ、西側先進国からヘッドハントで人を連れてきて作業を進めてますから、以前の“チャイナボカン”なイメージから着実に脱皮しつつある様子です。
中国はガソリン車での勝負では勝ち目が無いと割り切っているのか、最初からEVで勝負する腹づもりの様子です。
下記は、中国のEVブランド『バイトン』です。
BMWと日産の元幹部が立ち上げたこともあり、日本やドイツのメーカーも油断をしていると一気に追いつかれてしまう状況とのこと。
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引用元:https://www.autocar.jp/news/2018/05/19/287495/
また中国は、政府がライドシェアを2016年に完全に合法化しました。
ライドシェアは世界的には白タク行為とも捉えられかねないため、軋轢も多いです。
日本の場合ですと、タクシー業界が猛反発していて、国土交通省も慎重な姿勢を崩していません。
そんな状況を尻目に中国はライドシェアを合法化したわけであり、既に様々な実証実験データが、あの広い国土で取り放題になっています。
自動車販売においても、既に中国は世界最大のマーケットですから目が離せませんね。
まとめ
本書『2022年の次世代自動車産業』は、自動車メーカー、IT企業、半導体メーカー等、様々な業種や、米欧中日の地域別に、それぞれのプレーヤーが何を目指しているかがよく整理されていて、自動車業界の現状を把握するのにとても役立つことでしょう。
同時に、アマゾンやグーグル、中国の国を挙げての取り組みなど、想像以上に世の中が動いていることを実感できるでしょう。
自動運転、EV、ライドシェア…etc
従来の自動車メーカーだけでなくIT企業も参戦してきて“異業種戦争”となりつつある自動車産業において、日本のメーカーは、これまで培ってきた優位性を上手く活用して市場に確固たる地位を築くことができるのでしょうか。
《本の概要》
2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路 (PHPビジネス新書)
著者:田中道昭
新書:480ページ
出版社:PHP研究所 (2018/5/20)
《目次》
- 序章 次世代自動車産業をめぐる戦国時代の幕開け
- 第1章 自動車産業の「創造的破壊」と次世代自動車産業の「破壊的創造」
- 第2章 EVの先駆者・テスラとイーロン・マスクの「大構想」
- 第3章 「メガテック企業」の次世代自動車戦略
- 第4章 GMとフォードの逆襲
- 第5章 新たな自動車産業の覇権はドイツが握る?
- 第6章 「中国ブランド」が「自動車先進国」に輸出される日
- 第7章 「ライドシェア」が描く近未来の都市デザイン
- 第8章 自動運転テクノロジー、“影の支配者”は誰だ?
- 第9章 モビリティと融合するエネルギーと通信
- 第10章 トヨタとソフトバンクから占う日本勢の勝算
- 最終章 日本と日本企業の活路
《著者プロフィール》
「大学教授×上場企業取締役×経営コンサルタント」立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任し、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。小売り、流通、製造業、サービス業、医療・介護、金融、証券、保険、テクノロジーなど多業種に対するコンサルティング経験をもとに、雑誌やウェブメディアにも執筆中。NHK WORLD 経済番組『Biz Stream』のコメンテーターも務める。
主な著書に『アマゾンが描く2022 年の世界』(PHPビジネス新書)、『ミッションの経営学』『人と組織 リーダーシップの経営学』(以上、すばる舎リンケージ)、『あしたの履歴書 目標をもつ勇気は、進化する力となる』(共著、ダイヤモンド社)、近刊に『「ミッション」は武器になる あなたの働き方を変える5つのレッスン』(NHK出版新書)がある。
2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路 (PHPビジネス新書)