今回の記事は「ガンや認知症リスクが上昇! 歯周病の放置がマズい件」です。
皆さんは
歯周病菌は、脳に深刻なダメージを与える。
と聞いて、どんなことを想像しますか?
歯周病という言葉から「あまり放置しておくと歯が抜けてしまう」とイメージできる人でも、「歯周病が認知症リスクと関係」というのはピンとこないかもしれませんね。
歯周病と認知症の関係は、近年明らかになった問題です。
歯周病菌が血管を通って脳に到達すると、認知症リスクを高めます。
そもそも歯周病とは
歯周病は、細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患です。歯と歯肉の境目(歯肉溝)の清掃が行き届かないでいると、そこに多くの細菌が停滞し(歯垢の蓄積)歯肉の辺縁が「炎症」を帯びて赤くなったり、腫れたりします(痛みはほとんどの場合ありません)。そして、進行すると歯周ポケットと呼ばれる歯と歯肉の境目が深くなり、歯を支える土台(歯槽骨)が溶けて歯が動くようになり、最後は抜歯をしなければいけなくなってしまいます。
かつて歯周病(歯槽膿漏)は、不治の病といわれていたようですね。
でも現在は、正しい口腔ケアと歯科医院での定期的なメンテナンスで、十分対応出来ます。
歯周病の厄介な点
歯周病は歯に付着した歯垢や歯石をそのまま放置し続けた場合に発生する病気なので、虫歯と似ています。
ところが、虫歯が口の中のトラブルで済むのに対して、歯周病は口の中のトラブルだけでは済まない点が厄介です。
歯周病の問題点は、単純に歯を失うというだけではありません。歯周病の原因菌や、炎症によって生じる物質が血管や食道などを通り、からだのあちこちに送り込まれます。
歯周病と関係する怖い病気の代表格
歯周病と関係する怖い病気の代表格は、
●認知症
●糖尿病
●誤嚥性肺炎
●高血圧、脳血管疾患、心疾患などの循環器病
●ガン
です。
歯周病と認知症
まずは認知症から。
認知症は一度発症すると周囲にも多大なる迷惑をかけてしまうことが厄介ですが、歯周病とどのように関係するのでしょうか。
認知症の原因となる病気はいくつもありますが、もっとも患者が多いのがアルツハイマー病です。短期記憶などをつかさどる脳の海馬などを中心に、大脳全体に萎縮がおこる病気です。
2013年、衝撃的な報告がありました。医学雑誌「ジャーナル・オブ・アルツハイマーズ・ディジーズ」に掲載された研究結果によると、アルツハイマー病の患者10人の脳を調べたところ、うち4人の脳から歯周病の原因菌である「Pg菌」が見つかったのです。同じ年齢で認知症ではない10人の脳からは、一切検出されませんでした。
菌が脳にまで達していたというのが衝撃的ですね・・・。
菌が血管の中に入り込んで、そのまま脳まで達するというのは、あまり想像したくないですが・・・。
歯周病と糖尿病
次に糖尿病です。
糖尿病はそれ単体でも厄介ですが、合併症で脳梗塞や心筋梗塞の心配もしなくてはなりません。
その糖尿病は、歯周病とどのような関係があるのでしょうか。
歯周病菌が歯茎に侵入すると、これに対抗するため炎症が起き、炎症物質が体内で作られます。この物質が血管を通じて全身をめぐると、血糖コントロールを行なうインスリンの働きを妨げる。そのため血糖値が上昇して糖尿病を発症しやすくし、また悪化させることがわかってきています
糖尿病も認知症同様、血管に歯周病菌が入り込むことと関係していますね。
歯周病と誤嚥性肺炎
次に、誤嚥性肺炎です。
誤嚥すると、食べ物や唾液と一緒に歯周病菌が気管支から肺に侵入し、誤嚥性肺炎を引き起こすケースもあります
認知症と糖尿病は血管に歯周病菌が入り込む影響でしたが、誤嚥性肺炎は歯周病菌を飲み込んでしまうことと関係していますね。
歯周病と循環器病
そして歯周病は血圧や心臓といった循環器の病気とも関係します。
高血圧、脳血管疾患、心疾患などに関係していることがはっきりしています。これらの疾患で共通しているのが動脈硬化です。なぜ、歯周病菌が動脈硬化を進行させるのか? それは、歯周病菌のギンギバリス菌とギンギバリス菌が分泌する無数の外膜小胞(outer membrane vesicles (OMVs))に細胞侵入する性質があり、それによって動脈に慢性炎症が起こるからです。動脈の慢性炎症が起こると、血液中のLDLが動脈の内膜に入り込み、酸化して酸化LDLに変化します。これを処理するために白血球の一種も内膜へ入り込み、今度はマクロファージに変わります。マクロファージは酸化LDLを取り込んで泡沫細胞になり、炎症性物質を放出して動脈のあちこちで慢性炎症を誘発します。これらが引き金になって、動脈硬化が促進されるのです。
歯周病とガン
歯周病はガンとも関係します。
まず、膵臓がんの発症リスクが高まると言われています。歯周病菌の代表的な菌で、特に問題があるポルフィロモナス・ギンギバリス菌(以下、ギンギバリス菌)の保菌者は膵臓がんの発症リスクが1.6倍、同じく歯周病菌の一種であるアグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス菌の保菌者は膵臓がん発症リスクが2.2倍高くなると発表されています(参照:Fan X et al. Gut 2018, 67: 120-127.)。膵臓がんに限らず、歯周病菌はすべてのがんのリスクを上げるとされています。
(中略)
歯周病菌が全身の臓器に血液で運ばれ、慢性炎症を引き起こす。それがDNAメチル化異常につながり、がん発症のリスクを上げるのです。
こうして整理していくと、歯周病は、ありとあらゆる成人病のリスクを上げるといっても過言ではありません。
結び:口腔ケアと定期的な歯科健診が欠かせない
歯周病対策の基本は、毎日の正しい口腔ケアです。
歯垢ゼロの清潔な状態を保ち、歯石も一切無い状態を自分で保つことが出来ればよいのですが、磨き残しを毎回ゼロにすることはなかなか難しいことです。
歯を磨くことは基本中の基本です。ただ歯を磨けばいいのではなく、歯と歯の間を磨くことが大事です。フロスも併用し、歯と歯の間を取るようにしてください。ただし、歯ブラシとフロスを使い、いかに丁寧にきっちり磨いても、自力で磨けるのは9割まで。残り1割の汚れ(プラーク)は取れません。残った1割のプラークから歯周病や虫歯が発症するのです。定期的に歯科医院に通ってプラークや歯石の除去をするしかないのです。6ヵ月に一度では、歯に付着したプラークが石灰化して歯石になってしまい、歯石を削る際に歯を傷めてしまいます。プラークが歯石になる前に歯科医院に行くのが理想的であり、そのためには3ヵ月に一度の定期チェックを目安にすべきです。
こうやって整理していくと、歯周病の対策は「毎日の正しい口腔ケア」と「3カ月に1回の定期的な歯科健診」で対策していくのが現時点の最適解となります。
《参考・参照》
・歯周病を防ぐことが認知症の予防になる!? 最新研究でわかった「歯」と「脳」の関係
・膵臓がんの発症リスクが2倍に!「歯周病」を甘く見てはいけない理由