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WEB短編小説『竜宮城から戻ったら令和だった――後編』【無料】

後編に入る前に

 

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WEB短編小説『竜宮城から戻ったら令和だった――前編』【無料】『竜宮城から戻ったら令和だった――前編』 竜宮城へ行った姉(奈津美)が、約三十年ぶりに戻ってきた。 ――『浦島太郎』と同...

 

『竜宮城から戻ったら令和だった――後編』

 

――人生は、計画通りには進まないからこそ、面白いのかもしれない。

 

竜宮城から約三十年ぶりに戻った姉は、テレビ番組やイベントに引っ張りだこになることで仕事も見つかり、徐々に社会に復帰してきた。

姉は、とにかく一日でも早く現代の生活に慣れるべく、ITの勉強に余念が無い。今日はスマートスピーカーにはしゃぎっぱなしだった。――平成の初め頃を生きていて、ある日突然スマートスピーカーが目の前に出てきたら、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の世界が現れたも同然である。

まあいずれにせよ、姉の身の回りが落ち着いてくれて良かった。

 

――ただ、やはり人生は計画通りには進まないようだ。

今度は私の人生が、――計画とは大きく違ってきた……。

 

 

私の勤め先が早期退職者の募集を発表した。

その一週間後、私は上司から呼び出されたのだ――。

上司からは私が通勤する営業所の閉鎖を知らされ、遠く離れた別の営業所での勤務になる可能性が高いと告げられた。――そのうえで「今なら特別に、退職金が上乗せされる」と、遠回しに会社を辞めるよう勧められた。

会社一筋で二十年以上働いてきたが、会社で働き続けるには家族で引っ越すか単身赴任しかない。

 

同僚たちと話してみたところ、今回の早期退職者の募集に応じる腹づもりの人は、それなりにいた。さらにいえば、上乗せされた退職金を持ち寄って共同で起業する話まで既に持ち上がっていた。私も一緒に起業しないかと誘われた。

――赤信号、皆で渡れば怖くない。

状況的に前向きな感じもしたので、普段はイケイケな性格ではない私も、今回の早期退職に応じる予定の同僚たちの誘いに乗りたくなった。

相談してみたところ、妻は快諾してくれた。――善は急げ。

翌日、早速会社に早期退職する意思表示も示した。人事部で一通りの手続きが済んだ後は、新しく起業する会社のことを考えながらワクワクしていた。

 

――だが人生は、やはり計画通りには進まないようだ。

会社を辞めるつもりだと言っていた同僚たちは、妻からの猛反対に遭った。その結果、同僚全員がそのまま残って定年まで会社にしがみつくことになったのだ。――なんと、早期退職するのは、私だけになってしまった!

皆で起業する話なんて、当然に立ち消えである。

私は退職を取り消そうとして、真っ青になって人事部に駆け込んだ。――時すでに遅し。

一年前に実施された希望退職では、募集に応じた当時の同僚が、求人サイトで見つけたホームセキュリティ企業「ナイス警備 株式会社」に転職した。――でも残念ながら彼の年収は、前職から百五十万円も減っている。

 

私は妻に報告した――。

妻は「私の人生はこんなはずじゃなかった。――失業者の妻になるなんて」と嘆いている。妻は最後は退職にイヤイヤ承諾してくれたが、リストラされたと思われるのが嫌で、私のことを周囲にひた隠しにするつもりだ。――不愉快だが妻の人生を狂わせたのは確かに私なので、不満は言わないようにしている。

私にはこれまでコツコツ積み上げてきた貯蓄や割増退職金があるので、当面の生活に困窮することはない。――だがそれが時間稼ぎでしかないことも確かである。

職探しが始まった。幸か不幸か私は出世していないので、現場作業に対する抵抗感はない。――問題はアラフィフの私を受け入れる会社があるのかどうかだ。

全然畑違いの会社を狙うのはあまり現実的ではない。――電機メーカーに勤めてきた流れから、電子部品や機械メーカーの求人を探していった。

竜宮城から戻った当初の姉も相当苦労していた様子だが、アラフィフで新しい勤め先を探すのは本当に大変だ――。たまにそれらしい求人が出てくるが、応募してみても面接まで辿り着かないのだ。

 

――そんなある日、実家に集まって夕食を食べる機会があった。大学生の子どもたちが旅行で家を留守にしている最中だったので、妻と二人で出かけた。

転職先探しも大切だが、たまには気分転換も必要だ。

実家で両親や姉たちと一緒に晩ご飯。――どうでもいいことを喋っていると気が紛れて助かる。幸いにも両親は二人とも全然元気なので、今は自分の転職の心配をしていれば大丈夫なのが救いでもある。今夜も姉は、弟の私にパソコンやスマホに関することをアレコレと聞いてくる。Wi-Fiの話をしても割と理解が早い。――ちょっと前までポケベルとテレホンカードだった人がWi-Fiの話をしているのだから、「実年齢はアラフィフでも実体は二十代の若者」という姉だからこそ成せる技なのだとおもう。

食事が終わってリビングで親父とテレビを観ながら焼酎を飲んでいても、姉の質問は止まらない。――今度は自分のブログを持つ話だ。テレビ番組やイベントに呼ばれる人になってみて周囲の著名人を見回すと、SNS以外に、自分の公式ブログを持っている著名人が結構多いことに気づいたようだ。

――だが、ブログをイチから立ち上げるのは初心者には難しい。ついこの間からITをゼロから始めた姉に、独自ドメインやレンタルサーバーも含めた作業内容を分かりやすく説明する自信はない。そこで気分転換もかねて、私の方でブログを構築してあげることにした。

――どうせ無職のヒマ人なのだ。気晴らしにもちょうど良い。幸か不幸か私は出世していないので、現場作業は得意だ。電機メーカーに勤めてきたこともあって――同世代で比較する限り――パソコン作業の飲み込みは早い方だ。

 

 

ブログのアクセスは、立ち上げから三ヶ月が経過した時点で月間三千万PVを突破していた。

――さすがは竜宮城から戻った奇跡のアラフィフのオフィシャルブログである。立ち上げ早々こんなに集まるとは思ってもみなかった。ブログにはクリック保証型広告を設置していたので、正直なところ、会社員時代よりも遙かに実入りの良い仕事になる可能性が浮上した。

特に姉が出演したテレビ番組がオンエアされる日はアクセス数がハンパない。そのため、契約しているサーバーの料金プランをもっとキャパのあるものに変更しなおしたり、色々と対応に追われた。――嬉しい悲鳴である。

転職先探し?――そんなもの、後回しに決まってるだろwww

姉に代わってブログ記事の清書や代筆をしているのは私だ。当然ブログ全体の運営や管理も任されている。メールフォームから来る問い合わせや仕事のオファーへの対応も、私の方で引き受けている。――マネージャーとまでは言わないものの、色々とサポートしているうちに転職先探しがついつい後回しになってしまうのだ。

 

 

――都内のスタジオに到着。今日は動画の編集だ。時間が来るまではスタッフが用意してくれたコーヒーを飲みながら世間話。

ブログを運営する上ではテキストと画像で記事をアップするのも勿論大事だが、動画で伝えた方がいいこともある。――文字の打ち間違いならエディターで訂正するだけなのに対して、一度完成させた動画は修正するのが大変だ。でもまあ仕方が無い。それが仕事なのだから――。

私は今やすっかり姉のマネージャー状態になった。竜宮城から戻った奇跡のアラフィフは思った以上にウケた。ジュリアナ東京にリアルタイムで出入りしていたイケイケの姉が若い頃の姿のままアラフィフの肩書きでテレビ番組に出演するのだから、インパクトが強いのだろう。

ブログのアクセス数は順調に伸びていて、それに伴う広告収入も好調。――おかげで再就職をしなくてもよくなった。

 

――姉が竜宮城から戻ってきてくれて本当に助かった。

まあもちろんテレビ出演する最初のキッカケを作ってあげたのは弟の私なのだがwww

――人生は、計画通りには進まないからこそ、面白いのかもしれない。

 

ABOUT ME
Norizo-Ninja
貞吉 則蔵(さだよし のりぞう) ・40代 ・氷河期世代 ・自由人 ・投機家(相場歴10年超・FX・S&P500ETF・手法の軸足はトレンドフォロー) ・広告代理店マンだった人(10年勤めて退職) ・資格: 宅地建物取引士(合格当時は宅地建物取引主任者) ・出身校: 慶應義塾大学 ㈱電通など ・短編小説 ・エレキギター(Gibson Les Paul Standard・Fender Eric Clapton Stratocaster) ・格闘技(Kickboxing)
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